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2002年9月

認定ベビーシッターと今後の課題

2002年9月号

『認定ベビーシッターと今後の課題』  中舘 慈子

1 認定ベビーシッター

2000年、悲願とも言えた「ベビーシッター」の資格ができた。厚生労働省認可 社団法人 全国ベビーシッター協会(以下「協会」とする)の認定する「ベビーシッター」の資格制度が発足したのである。これは、協会の主催する「新任研修」および実務経験を経て受講できる「現任1研修」を終了し、「認定試験」に合格したベビーシッターに与えられる資格である。施設型保育は「保育士」の資格を必要としながら、個別保育は、ボランティアで十分であるという価値観、バイト感覚でなされるものという先入観は依然として払拭されていない。現場においても、施設の保育者は「先生」と呼ばれ、ベビーシッターが子守り扱い・使用人扱いをされて、その社会的地位の低さに寂しい思いをする現実もある。弊社で実働しているベビーシッターは、保育所・幼稚園・学校の先生の経験者、子育て経験者などが多く、ひとりひとりの子どもの個性を温かく受容し、きめ細やかな個別保育を行っている。私のここで述べる「ベビーシッター」は協会の目指す「認定ベビーシッター」であり、個別保育のプロフェッショナルである。

2 あらゆる保育ニーズに応えられる

① 送迎を伴う在宅保育

日が暮れると鳥は巣に帰る。「からすと いっしょに」子どもたちが家に帰ったのは、もう過去の出来事なのだろうか。日が暮れるころに保護者に代わって保育所の迎えに行き、子どもを家につれて帰ってケアをする・・・ ベビーシッターは送迎を伴う在宅保育を行う。「葉っぱを取ったり、お散歩中のおじいさんと握手したり、ゆっくりと帰りました。」保育園の迎えから子どもの家に向かうベビーシッターの記録である。時がゆっくりと流れている。集団では味わえなかった個と個とのふれあいをベビーシッターと握った手のぬくもりといっしょに子どもは感じる。「シッターさんなんて、大嫌いだ! ママとでなくちゃ、帰らないよ。」ベビーシッターを困らせる子どももいる。私たちは「困らせる言動」を子どものメッセージと受け取っている。子どもは集団や家庭ではいわゆる「よい子」であっても、何か満たされない思いを内に秘めていることがある。このような思いが先生でも親でもないシッターに向けられる。「そうかあ。ママがいいのね。でも、私はK君のことが大好きよ。」いつか、K君もシッターとしっかり手を握って帰るようになる。自分ひとりのために迎えに来てくれる人、どんなに駄々をこねてもすべて受け入れてくれる人,こんな存在であるシッターとの間に信頼関係が築かれ、K 君の心が開かれたのである。家は子どものお城である。子どもは、自分の食器で食事をして、家のお風呂に入って、自分のベッドで休む。途中で揺り起こされて寒い道を帰る必要もない。保護者にとってもこれ以上の安心はないのではないだろうか。一方、さまざまな理由で、施設での延長保育を望む家族もいるだろう。ベビーシッターを望む家族、施設での延長保育を望む家族が、同じ条件でいずれかを自由に選択できるようにならないものだろうか。

② 在宅健康支援サービス

子どもが熱を出す。「さあ、大切な仕事を任されて、がんばろう!」と張り切った矢先に。回復期も、まだ保育園に登園させることができない。夫も仕事を休めない。・・・働く母親なら、子どもの病気で仕事を休まなければならない経験をしたことがあると思う。こんな時トレーニングを受けたシッターが家庭に行って、回復期の子どものケアをすることができる。こうすれば、はるばる「病後児のための保育所」まで病気の子どもを連れていく必要がないだろう。協会および協会会員は新任・現任1研修受講者を対象とした「実践研修」で在宅健康支援サービスに関する研修を行い、専門性の向上に努めている。ベビーシッターサービスは、自宅待機をしているベビーシッターに連絡を行い、情報を伝えて保育現場に派遣するシステムである。したがってあらゆる保育ニーズに最も柔軟に対応できる。たとえ、数時間以内に派遣して欲しいと言うニーズでも、休日の早朝から深夜まで保育して欲しいと言うニーズにもできるかぎり対応できるような人材の確保と手配を行っている。

3 育児不安、虐待を未然に防ぐことができる

① 産褥期のサポート

産褥期にはマタニティーブルーと言われる状態、すなわち育児ノイローゼ、育児放棄、さらに乳児虐待などの状態になる可能性がある。また、母性の基礎が培われる大切な期間でもある。シッターは、家庭を訪問して、新生児の沐浴、必要であれば家事の援助を行う。援助者がいることそのものが母親にとって大きな精神的なサポートになる。

② 保護者のリフレッシュのための保育

子育てには少し息ぬきが必要である。育児の責任を一手に引き受ける専業主婦も、仕事と育児を両立させるワーキング ウーマンも、時にはリフレッシュのために子どもや仕事から離れた自分のための時間を持つことが必要だと思う。子どものためにも、子育ては夢のある楽しいものであってほしい。育児に直接関わる母親が、不安にかられ、虐待をしないまでもいらいらしているとしたら、子どもの人生も不安に満ち、殺伐としたものになりかねない。夢があり楽しく子育てをするには、保護者がゆとりのある気持ちを持つことが必要であろう。シッターが訪問したことで育児不安を解消し、虐待を未然に防いだ例は多い。第2子出産後母親が強い育児不安に陥り、赤ちゃんの泣き声を聞くとパニックになったが、毎日数時間シッターが赤ちゃんを外に連れ出すことで、母親の精神的負担を軽くした。半年も経つと母親の状況は快方に向かい、3年経った今では、明るい声でリフレッシュのための依頼をしてくるといった例もある。

3 今後の課題

ここまで、ベビーシッターが、あらゆるニーズに柔軟に対応できる保育の形態であること、育児不安、虐待などを防ぐためにこれからの子育てになくてはならないシステムであるということを述べてきた。次に、今後の課題について触れてみたい。
ベビーシッターの一定以上の資質を確保するという課題については「認定ベビーシッター」の資格ができたことで、可能になった。さらに個別保育ならではの専門的な保育分野での研修も行われて、資質の向上への努力が続けられている。大きな課題は「ベビーシッター料金が高い」ということであろう。1時間1500円。これが協会会員会社の最多価格である。以下、料金の壁を破るいくつかの手法を考えてみた。

① 在宅保育サービス援助事業等の拡大

協会と協定を結んだ企業に勤める従業員が、就労のために1日1回1500円の在宅保育サービス割引券を利用できるシステムである。現在、一企業あたり利用できる枚数が,年間1200枚以内であるなどの様々な制約がある。今後、利用枚数の見直し、利用目的の多様化、利用手続きの簡便化、などの問題点を検討する必要がある。この制度が一種のバウチャー クーポン券として、より利用しやすいものになることを期待している。その他、2000年に開始された「双生児家庭へのベビーシッター訪問事業」は、双生児家庭のリフレッシュのために公的補助が出るという画期的な試みである。さらに、より多くの家庭がリフレッシュのためにベビーシッターを利用できることを目指したい。

② 公的補助のより公平な配分

すべての児童が、未来の日本を支える可能性を持っている。それにもかかわらず、家庭で育てられている児童には月5000 円から1万円の「児童手当」が満6歳になるまで与えられるのみである。所得制限を越える家庭では、児童手当を受けることすらできない。児童手当の金額そのものも、ドイツ・イギリス・フランス等と比較して、半額に過ぎなく、受給期間も短い。一方、施設型保育を利用すれば、1カ月に数万から数十万円の公費補助の還元を受けることができ、なおかつ児童手当を受けられる。海外と比較してみると、待機児童対策という観点から行われる日本の公的補助が施設型保育、すなわち保育所における保育に偏重した形で行われていると言える。限りある財源の中から公的補助がすべての児童に対してより公平に行われる方法を検討する時期がきたのではないだろうか。