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2003年7月

珠玉の日々~第2回レッジョエミリア教育の試み~

2003年7月号

『珠玉の日々~第2回レッジョエミリア教育の試み~』 中舘慈子

珠玉のような5日間でした。軽い興奮が私の中にまだ渦巻いています。レッジョエミリア教育の試み、それはストーリーのないドラマに参加することでした。

4歳児のKちゃんKくんTくん3歳児のSくんが今年の参加者でした。4人ともカーサの卒園児。うち2人は幼稚園に通いながら、カーサのアトリエに通っています。先生たちは昨年と同じ梅沢礼子先生金子久美子先生豊田章江先生のチーム。今年は美術大学出身でイタリア人の血をひく竹本伊都美先生もアトリエリスタ役として加わりました。
初日は「表現する喜び」を味わう活動、2日目は昨年と同じプロジェクトテーマ「馬」について考える活動、3日目は実際に「馬」をみて触れて乗って感動する体験活動、4日目・5日目は体験に基づいて「馬」を表現する活動が行われました。この内容については、改めてドキュメンテーションをホームページで公開したいと思っています。
私の心の中で昨年と比べて年齢の低い子どもたちでどのような活動が行われるのか、興味と不安の混じる気持ちでした。しかし不安は初日に吹き飛びました。

なんと個性的な4人!言葉は少ないけれど顔の表情で胸いっぱいの気持ちを表すKちゃん、こつこつとゆっくりですが自分の感じた世界を現していきます。入園のころよりすっかり落ち着いたKくんは観察力が鋭く、集中力もあり、かなり的確に形を表現します。あふれる感性をもっているTくんは豊かな言葉や自信に満ちた態度で大人の発想を飛び越えた自由な表現をします。Sくんは、なかなか活動は長続きしませんが、ぽつりぽつりとはっとするような言葉で心の中のひらめきを伝えます。いちばん集中した活動は、立体の「馬」を作る活動でした。アトリエにあるダンボールやさまざまな廃品を組み合わせられて、思い思いの「馬」ができていきます。技術的に難しい部分については、たとえばダンボールに切込みを入れてつなげる技術など援助をしました。考えが止まってしまったと思われるときは「どうしたいの?」と質問を投げかけました。「本当の馬はどうなっていたかな?」「写真を見てみる?」「ダンボールに乗って、馬に乗ったときどんなだったか思い出してみようよ」。胴体だけで首や頭をつけることに思いつかないときは、こんな言葉の援助をしました。活動の主体はあくまでも子どもたち。保育者の役割は、「子どもたちが投げたボールを受け取る」ことですから。
私たちは気づきました。子どもたちは「本当に乗れる馬」「動かせる馬」を作りたかったのです。3日目に怖くて実際に乗れなかったKちゃんが、自分で作った特大の馬「トトロ」に乗ったときのこぼれるばかりの笑顔は忘れられません。Kくんの「マリ」ちゃんは、首を動かすことができて4本の足には蹄鉄もついていて、鞍は虹色になりました。Tくんの「あさこ」ちゃんは、本当に個性的な馬。左の耳は細長い筒、右の耳はプラスティックのコップでその中にはにんじんが入っているのです。4日目に自分の馬「トトロ」をつくったSくんは「いちばんうれしかったことは、Sくんのお馬さんをつくったこと」とご機嫌でした。

先生たちは活動の前後に必ずミーティングを行いました。もうひとつの「レッジョエミリアの活動」です。先生の言葉と子どもの言葉をメモしたドキュメンテーションに基づいて働きかけが果たしてそれでよかったのか、子どもはどう感じてその言葉を言ったのだろうかなどその日の振り返りと、どうしたら子どもたちの気持ちを引き出して表現につなげられるのかという次の活動への予定を熱く語りました。まだ、耳に子どもたちの歓声が響いています。「幸せな子どもたちだと思った」とアトリエリスタ役の先生が言いました。ひとつひとつの言葉に耳を傾けてもらえ、生き生きと創造活動に熱中する彼らの顔は、喜びや満足感に満ちていましたから。
しかし実は参加した子どもの2人は、保育所や幼稚園に一度入園して登園拒否などになり、カーサデルバンビーノを訪れた子どもたちなのです。3歳という自我が確立していく貴重なときをカーサではていねいに対応しました。保護者の方で、カーサの先生のかかわりをみながら少しずつ自分の子どもに対する対応を変えた方もいます。そして、今は全員はつらつとした幼稚園生。カーサとの出会いが彼らのすばらしい可能性を引き出せたのではないかと思っています。

脚本のないドラマに主演した私たちにとっても、珠玉の日々でした。「終わるのがあっという間、子どもたちの集中力に驚いた。子どもの笑顔が見られてよかった。先生同士の保育前後のディスカッションなど日常の活動に生かしたい。」「子どもたちが『受け入れてもらう』ことで満足していることを感じた。卒園児の成長した姿を見て涙が出るほどうれしかった。自分自身の保育へのたくわえが枯渇する中でリフレッシュできた。」「実践することでレッジョエミリア教育の意味はこういうことかな?と少しずつ分かってくる。言葉のあまり出ない子が造形絵画を通じて表現することも実際に体験した。」「『待つ』こと子どもにちょっと問いかけることで子どもから答えが返ってきて、教わることが多かった。創造活動から感動が伝わってきて楽しかった。」「ひとりひとりの子どもと『意識をもって接する』ことが必要だと思った。」

最後のミーティングで先生たちからあふれた言葉です。先生たちもレッジョエミリア教育を実践し、感動してその中で何かが変わっていきます。先生が変わることで、多くの子ども達も変わっていくことでしょう。