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2004年12月

上海のベビーシッター

2004年12月号

『上海のベビーシッター』 中舘慈子

上海空港からの高速道路からぐらぐらするほど大きな真紅の夕日が見えた。ここは大陸なのだ、という感動が身内から湧き出した。1時間ほど車の警笛の鳴り響く高速道路を疾走すると最新のデザインのマンションがきらびやかに林立する上海の街に入った。スケールが違う!と感じた。

新旧混在の街、貧富混在の町、不協和音が鳴り響いている町であった。しかも、すべてが東京の10倍くらいのスケールで。
上海におけるベビーシッター事情はどうなのだろうか?絵描きでもあるガイドのAさんは、ベビーシッターには6つの条件について次のように話してくれた。

  1. 健康であること
  2. 子育て経験または保育経験があること
  3. 性格が明るいこと
  4. よい生活習慣ができていること
  5. 標準語を話すこと
  6. 35歳くらいがいちばん望まれる

一人っ子政策が進んで一人っ子同士の結婚もこのごろでは多く、そのときには子どもを2人まで産んでよいことになったそうだ。Aさんには、女の子が1人あり、小さいときから音楽を学ばせており、そのことが高く評価されるという話も聞いた。

上海のベビーシッター会社を訪れた。ビルの1フロアーにあるこぎれいなオフィスにはパソコンが整然と並んでいて、10人あまりのスタッフがパソコンに向かったり仕事に専念したりしていた。そのときの様子を簡単にレポートしてみた。この会社は1994年に赤ちゃんの産毛で筆を作る会社として発足したが、2000年にベビーシッター部門を開始した。上海には現在ベビーシッター会社が10社ほどあるそうだ。

メンバー制になっていて、1時間12~15元。1ヶ月24時間の契約だと2000~2500元になる。シッターのレベルによって料金は異なり、シッターには60%をバック。事故の責任は会社がもつ。シッターの年齢は30~50歳が中心。(注1元は約13円)

研修は30日間。内15日は理論であり、15日は病院における実習。上海市として「枦理員従業証」の資格を出しており、この資格取得には350元くらいかかるという。8ヶ月までの産褥ベビーシッターおよびベビーシッターをするにはこの資格が必要であるが、8ヶ月より大きい子どもは家政婦資格でもよいそうだ。この会社には有資格のベビーシッターが200人ほど登録しているという。利用者は核家族が多く、3ヶ月から復職して1歳半まではベビーシッターによる保育を行う。1歳半ごろからは保育所に預けるそうだ。乳児期は家庭で個別保育、2歳近くなってからは、集団保育という子どもの発達に沿った保育が行われている。また、産褥期のケアの必要性とケアに関する専門性が必要であることを的確に捉えているのだと思った。

日曜日であったが、ベビーシッターの面接が行われており、面接室には7~8人の30~50歳くらいの優しそうな女性が順番を待っていた。履歴・稼働時間・地域などを聞いている様子は、私たちが日ごろ行っている面接風景となんら異ならなかった。

驚くほどの騒音と活気に満ち溢れた街、上海。古今東西、各国の文化が交錯しスパークする国際都市上海。しかし一歩裏町に入るとタイムマシーンでさかのぼったかと思われるような貧困の光景があった。急激な変化が日本の第二次世界大
戦以後の変化の10倍の速度で起こっている。急激な変化によるひずみも日本の10倍の大きさで起こるのかもしれないが、上海の子どもたちは、さまざまな子育てサポートシステムや教育施設を通じて元気に育っていくのかもしれない。帰途、空港に向かう高速道路から、今度は特大の真紅の太陽がゆらりゆらりと昇っていくのを見た。