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2005年1月

子どもと絵本

2005年1月号

『子どもと絵本』

川合玲子(大学講師、(株)ファミリー・サポートチーフサポーター)

子どもによい絵本を与えたい、絵本を読むことで活字に興味を覚えてほしい、そしていずれは本好きになってほしい。親も保育者も、誰もがそう願うものだと思います。

子どもの教育にはお金がかかります。教育費には高額なお金を投資しても、なかなか絵本をじっくり選んでよいものを惜しみなく与えることはできません。そうすると図書館などへしげしげと通うことになりますが、それも手間のかかることです。図書館は第一に静かにする場所ですから、子どもを連れていくには面倒も感じられます。手遊びや伝承遊びを子どもと楽しんだりすることも、実は子どもとのコミュニケーションに大切な体験であるとわかっていても、なかなか多くの時間子どもと向き合うことは難しい。手間をかけることは大切ですが、手厚い育児をすべきとなるとお母さん達にストレスがかかってきます。なぜなら、自分を含む今の母達は、妊娠出産で中断した自分の楽しみも育児と共に引き継ぎたいからです。

それがわかっていてなお、望みたいことがあります。それは、子どもに絵本を読んで聞かせてあげてほしいということ。子どもは絵本を味わうものだと思います。口に入れてかんだりもぐもぐしたり、一度入れたものをもう一度引っ張り出してながめてみたり・・。いえいえ、本当にそうする子もいますが、そういう意味ではないのです。聞いた言葉をゆっくりかんで味わい、目に飛び込んだ挿絵をジュースのように飲みこんでみたり、そうして心の引き出しにためこんでいくのです。そしていつか刺激ある体験が訪れた時、大人に注いでもらった言葉や色彩のイメージが、その体験をいろどってくれることでしょう。ですから、読んであげる言葉は大切に、いつかたまっていた言葉がかたちとなって表れる日のために、美しい響きとして心の中に折りたたんであげたいのです。おいしい味のもの、面白い食感のものは、何度でも味わいたくなります。繰り返しせがまれたらそれはおいしかった証拠。成功したらしめしめと、大人はひそかに喜んでさらにおいしいものをからだの中に注ぎ込んであげましょう。

怪物が出てきた時のどきどき感、虹に乗ってお空をビューンと飛んだ時のわくわく感、みんなでごちそうをお腹いっぱい食べた時の幸福感…みんな心の中に栄養となって吸収されていきます。栄養満点になったら、お散歩のとき素敵なことが起きるかもしれません。なにげない水たまりをありさんのプールにみたてて話しかけたり、風さん強く吹いたらだめよ、とお空に呼びかけるかもしれません。その時子どもの心からは、かつてからだにためてあった言葉の響きや、美しい色彩のイメージがほとばしりでてくることでしょう。読んで聞かせてもらったことで、自分が主人公になった経験が初めて生きてくるのです。

多くの先生方が唱える説と、同じことを私も思っています。それは子どもが自分で絵本を読むようになっても、すぐに読み聞かせをやめてしまわないこと。子どもは4,5才を過ぎればなんとか絵本の文字を追えるようになってきます。そこで手放してしまってはなんとも惜しいものです。せめて小学校1,2年までは、望まれればいつでも大人が関わって読む作業をやめないことです。もう読めるものを、読んでと言って持ってくる時、それは読んでほしいというより自分と関わる時間をもってほしい時です。この信号を逃してはもったいないことです。そのうちに、読んでやろうかと言ってもいいよ、と言われてしまう日が来ます。自立してきて、自分で読むと言ってくる日は必ずやってきますし、ここまでくれば中学年からは本に親しむことが容易にできるでしょう。もう栄養は充分ですし、ためてあったものを自分で引き出すノウハウをつかんでいるからです。集団の読み聞かせを上手にすれば、実は中学生でも耳を傾けるのです。子どもは皆、言葉(うたや音楽のようにリズムに乗った響き)や絵の刺激をからだの中に受け入れたい欲求を持ちつづけています。しかもそれは、自分に手間や時間をかけてくれる人が運んでくれることで、初めて満たされるもののように思います。(大人だって、美術館や演奏会に時々行きたくなりますよね。実はそれは心が栄養を欲しがっている時なのです)

絵本はゲームのように、与えておけば自分の力で楽しめるおもちゃではありません。子守りを勝手にしてくれるTVなどとも違い、大人が介在して初めて生きてくるアイテムなのです。せっかく買った絵本がほとんど使われずに本棚に眠ってしまうか、手垢ですりきれるようにして大切に飾られるか、それは大人の関わり方しだい、ということになります。

関わり方ひとつで将来、取り上げても禁止しても布団の中で隠れて読むほどの本好きになるかもしれません。

口に入れる食材と同じくらい気を使って、質のよい絵本を用意することができたらさらに素敵なことです。子どもは必ずリクエストしてくることでしょう。その時忙しくてもほんの少し、時間をかけてあげることを忘れないでいただけたらと思います。