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2006年6月

授乳の喜び

2006 年 6月号

『授乳の喜び』 浅田志津子(教育・福祉関係のルポライター)

早いもので、娘も丸5ヶ月になった。そろそろ離乳食を開始しなくてはと市の離乳食教室に参加したり、離乳食のレシピ本を買ったりしている。昨日はデパートで赤ちゃん用の食器やスプーン、マグなどを物色しながら、これからはどんどん授乳回数が減っていくんだなぁと思ったら、なんだか少し淋しくなった。

生後3か月くらいまでは、24時間営業での2~3時間ごとの授乳に喜びを感じるゆとりはなく、娘がうまく乳首に吸いつけずに大泣きするわ、あちこちに母乳がこぼれるわで大変だった。特に深夜の授乳は眠いし寒いしで、「粉ミルクのほうがずっと楽だなぁ...」と思ったものだ。だが、母乳育児の良さを病院や友人からたっぷりと聞いていたため、慢性的寝不足と戦いながら、ほとんど母乳のみでがんばり、そのかいあってか、これまで病気ひとつせずに順調に成長している。

この太りっぷりを見れば、母乳だけでも栄養は足りているのが一目瞭然である。最近は育児にもゆとりがでてきて、授乳のひとときを味わえるようになった。フンギャフンギャ泣きだした娘をすっぽりと胸に抱く。とたんに娘は泣きやんで、小ちゃなお口をひらき、唇と歯茎を上手につかって、ウックンウックンおっぱいを吸い始める。どんどん母乳が出て、それまで張っていた乳房がみるみる軟らかくなっていくいっぽう、娘の体が重たくなっていく。気のせいか、娘の体温もあがっているようだ。ときどき、娘は吸う口を休めて、つぶらな瞳でじぃ~っと私を見つめる。にっこり笑い返すと、娘はまたチュッチュクチュッチュクおっぱいを吸い出す。その感覚とぬくもりを味わいながら、私は女に生まれてよかったと思い、母になった幸せを静かにかみしめる。男性には決して、味わえない喜びである。

おむつ変えやお風呂のたびに、娘のムチムチの腕や太ももをさわりながら、「おっぱいだけで、よくぞここまで肥えたもんだ」と満足気ににんまりするのも、母乳育児における大きな楽しみだ。しかし、毎日これだけ大量の母乳を出しているのに、期待していた母乳ダイエットの効果がさっぱりなのは、なぜだろう。

週に一度のギタークラブ

 2006 年 6月号

『週に一度のギタークラブ』

浅田志津子(教育・福祉関係のルポライター)

昨年の秋、妊娠を機に都内からさいたまに引越したさい、それまで所属していた趣味のクラシックギターアンサンブルも、遠くなって通うのが大変だからと退会した。今後、再開するにしても、これからは子どもを抱えての生活になるため、出産後、ひと段落したら、練習場所が近いアンサンブルを改めて探そうと思ったのだ。

出産してから数ヶ月、ようやく赤ちゃんのいる生活にも慣れた頃、近くの公民館をいくつか当たってみた。すると、なんと家から徒歩10分の最寄の公民館にギタークラブがあったのだ。代表者の連絡先を教えてもらい、それから数日後、思いきって電話をかけてみた。「うちはメンバーの平均年齢がかなり高いですが、よかったら一度練習を見学にきてください」と言ってくださり、翌月、娘は主人に見ていてもらい、見学に行った。階段をあがってつきあたりの部屋に向かう途中、ギターの音色が聞こえてきた。久しぶりに聴く、生のギターアンサンブルの音色はせつなく心に響いて、「一個人」としての感覚が自分のなかにわきあがってくるのがわかった。扉を開けると、
50~70代くらいの男女7、8人が練習していて、見学に来たという私を笑顔で迎えてくれた。最高齢の方は87歳と知って驚いたが、「83歳からギターをはじめて、今はギターが楽しくてしょうがない。生きているかぎり、つづける」
という言葉に、「これぞ生涯青春だなぁ...」と思った。

あの日から3ヶ月、毎週1回、娘をベビーカーに乗せてギターの練習に行くのが、現在の私のなによりのリフレッシュである。幸い、娘にとってギターの音色は子守唄に近いらしく、練習中は私の隣で、ほとんどぐずりもせずに、驚くほどぐぅぐぅ寝ている。なによりありがたいのは、子育て経験豊富なメンバーの方々に育児におけるさまざまな疑問や不安をあれこれ聞けることだ。実家が遠いぶん、私には同世代のママ友達以上に、母世代の頼れる存在にほっとする。

「毎週、ここに来て、さっちゃん(娘のこと)をだっこするのが楽しみよ」と言ってくれるメンバーの方々の言葉に、「我が子をいとおしんでくれる人々が地域にいるということは、母親にとってなんて深い安心感と幸福感をもたらすのだろ
う」と感じいってしまう。ギターをつうじて、私はリフレッシュするだけでなく、最高の「子育て支援」にめぐりあえたのだと思っている。

0.98ショック!!

2006 年6月号

『0.98ショック!! 』 中舘  慈子

0.98。これは2005年の東京都合計特殊出生率である。単純に見れば、東京都の女性が生涯に産む子どもの数がついに1人を割ったことになる。全国平均は1.25。もちろん、過去最低である。
「厳しい数字ですね。」
「今年になって出生率の回復のきざしがあるとの報告を受けていたんですけれど、今後、少子化対策は最重要課題になってくると思いますね。」
6月1日に小泉首相が記者団に漏らしたという。

エンゼルプランから始まり、さまざまな少子化対策が講じられているが、出生率の低下はとどまるところを知らない。社会保障が危ぶまれるといったところで、今まで「子どもは女性の問題」という意識を持っていたお役人たちも、やっと自分自身の問題として腰を上げざるを得ないのではないかと思う。

在宅保育サービスの仕事に関わって16年、自分の会社を創って12年になる。もちろん保育所などの施設型保育の充実は必要であるが、「家庭での子育ての支援」の必要性を説き続け、サービスを行い、大学での「在宅保育論」を立ち上げたりしてきた。しかし、国や自治体の在宅保育サービスに対する施策は遅々として進まず、ようやく自治体(川崎市 世田谷区 渋谷区)による産後ヘルパー事業の委託を受け始めたところである。

次は世界の出生率の推移のグラフである。フランスでは1994年ごろから出生率が上がり、現在は1.9である。フランスの子育て支援政策にはベビーシッター料金の助成も含まれている。少子化対策にかける費用も、フランスではGDP(国内総生産)の2.8%であるのに対して、日本は0.6%に過ぎない。
 
最重要課題といわれる日本の少子化対策が、従来の発想で行われたとしても出生率の上昇は望めない。今こそ、在宅保育サービスも含めたトータルな子育て支援が必要である。