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2008年2月

『誰かのそばで本を読む幸せ』

2008年2月号

『誰かのそばで本を読む幸せ』

浅田志津子(教育・福祉関係のルポライター)

 

2歳の娘を連れて、最寄の図書館に、よく絵本を借りにいく。行くたびに、わたしは図書館という場所が本当に好きだと思う。たくさんの人々が、たいていはひとりで、静かに新聞や書籍を読んだり、探したりしている空間は、わたしにはたまらなく居心地がいい。

図書館からの帰り道、ふと懐かしく思い出す場所がある。神奈川県の横須賀市に住んでいた小学生の頃、歩いて10分くらいの距離に、自宅のひと部屋を文庫にして、毎週土曜日に近隣住民に本を無料で貸しだしている家があったのだ。子供がいない家だったけど、児童書もいっぱいあった。その家の「おばちゃん」は、私の母よりずっと年上だったから、当時50代くらいだろうか。子どもが行くと歓迎してくれるので、よく行っていた。ふだんは、借りた本を返して、新しい本を借りてすぐに帰るのだが、その日は母親が出かけていて、すぐに帰宅する気になれず、子どもならではのあつかましさで、おばちゃんに「ここで、本を読んでいてもいい?」と聞いたのだ。

「お母さん、心配しない?」と聞かれ、「ママは6時に帰ってくる」と答えたら、「あら、じゃぁ、それまでここで読んでなさい」とにっこり言ってくれた。そして、わたしはその書庫のような部屋で、座ってもくもくと本を読み、その間、おばちゃんも窓際の机でなにか読んでいた。

たぶん、2~3時間くらいのことだが、あのとき、あの部屋に流れていた優しい空気を、今もぼんやりと覚えている。読書はひとりの、ある意味孤独な趣味だけど、同じ空間の中で、それぞれが本を読むひとときのあたたかさを、わたしはあのとき知った気がする。

我が家では、寝る前のひととき、和室にしきつめた布団の上で、夫が鉄道雑誌を読み、娘が絵本をめくり、わたしは小説を読んでいる。3人とも、それぞれの世界にいるため会話は無いが、わたしがもっとも好きな時間帯でもある。