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2008年8月

『米国の中高生事情』

2008年8月号

『米国の中高生事情』

市橋理恵子(ファミリー・サポートスタッフ)

 

夏休みに2週間の休暇をとり、家族で4年3か月ぶりに米国カリフォルニアに帰った。夫の海外赴任に伴い6年6か月間住んだ第二の故郷である。赴任時に2歳と4歳だったわが子たちは今13歳と15歳、かつての友達たちもまたティーンエージャーになっており、お互いに懐かしいやら、照れ臭いやらの再会を果たした。

親同士も思い出話をしながら、「あなたがいなくなってから、ずっと学校の送り迎えのカープール相手を見つけるのに苦労してね…今年も休み明けのめどがまだ立っていないの」とこぼされた。この友人は学校の先生をしていて、朝の出勤が早かったのでいつもその娘二人が我が家で少し時間をつぶしてから、一緒に学校に車で送っていっていたのである。その代りお迎えはその友人が行ってくれることになっていたが、急な用事で間に合わない時には電話がかかってくるのでいつもお迎えの時間には私も待機していたものだ。

車社会のアメリカでは、中高生になっても免許を持っている大人に送り迎えをしてもらわないと学校にすら行けないということに改めてびっくりした。デートをするにもどちらかの親が車で迎えに行ってデートの場所まで連れて行き、約束の時間にはまた迎えに行くから、「いつ、誰と、どこで」なんて内緒にできるはずもない。安心と言えば安心だが、親は走り回ってばかりでたまらないだろう。

「そんなことをして安全なのか?お金まで持たせて大丈夫なのか?」とかえって私が保護義務を怠っているとでも言わんばかりの反応だった。思えば帰任時には小学3年と6年だった子どもたちが学校まで歩いて通学するのが心配で、私も離れて後をついて行ったことを思い出す。あれから我が子らは無意識に周りの車や人の動きを察知しながら安全に通行することを覚え、小銭で切符を買って電車に乗ることも覚えた。携帯電話に潜む危険や、変質者がいる可能性などについても知らせてきたので、部活動などで予定が変更になれば自主的に家に連絡を入れるようになった。電車の運休や天候の急変など不測の事態への対応も経験し、判断力も鍛えられてきた。

日本とアメリカでは社会の状況が異なるので、どちらが良いとか悪いとかいう問題ではないが、安全で便利な交通機関が整っていて、その中で少しずつ社会人としての自律心と対応力を養っていける日本の環境は守っていかなくてはと感じた。また、見えにくくなる子どもたちの行動と心に細心の注意を配ることの大切さも。

一方のアメリカでこれから2,3年の間に、娘の友達たちが車の免許を持ち、親の家を巣立って行くその過程はどのようなものになるのか?その頃にまた会いに行きたいものだ。

 

『八月が来るたびに』

2008年8月号

『八月が来るたびに』

浅田志津子(教育・福祉関係のルポライター)

 

毎年、8月が来るたびに、テレビで原爆の式典を見ながら思いだすことがある。もう、20年以上も昔のことだ。当時、私は南米に住み、アメリカンスクールに通う高校生だった。その学校には、世界各国の米国と友好関係にある国の生徒が在籍していたが、教師のほとんどは米国から派遣されてきた20~30代の若い白人教師だった。

この学校で、17歳の私は米国人教師によるアメリカ至上主義の偏った教育に驚くことになる。世界史の授業で、母国が史上初の原爆投下「成功」国であることを、教師が多少誇らしげに語ったときは、心底驚いた。そのうえ、原爆投下によって日本は誤った戦争に終止符を打つことができ、米国との安全保障条約による平和のもと、戦争を放棄して経済発展に集中できたから、これほどの経済大国に成長できたといった趣旨を淡々と語った。私は聞きながら、悔しさや怒りよりも、恐怖を感じたのを覚えている。原爆投下を肯定する教育が、次ぎの世代に向けてこうして受け継がれているという事実が、ただただ恐ろしかった。

あの頃、私の英語力は低く、流暢かつ完璧な英語で、理知的にあの教師に異議を唱える自信も勇気もなく、ただうつむいていただけだった。今、思えば、抗議の意志を示すためだけでも、教室から出ていくくらいの行動はとるべきだったのかもしれない。けれど、その後、やんわりと転校を促されるのが怖かった。「目ざわりな存在は排除したい」という米国政府の思想は、世界各国のアメリカンスクールにおいても健在なのだ。

偏った教育の恐ろしさを実感したこの出来事は、その後、私が教育関係のライターになったきっかけのひとつになっている。「いい教育」についての意見は多々あるが、私が思う「いい教育」はバランスのとれた教師による、つねに生徒に考えさせる余地を与える教育である。そういう教育を、すべての子供が受けられれば、世界は確実に進歩していくと信じている。