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2009年2月

『薬を出さない小児科』

『薬を出さない小児科』

浅田志津子(教育・福祉関係のルポライター)

 

…風邪をひいた。4日前の夜、3歳の長女がときどき乾いた咳をしたので嫌~な予感がしたのだが、翌日の午後には、もう大量の鼻水、涙目で、小児科に連れていった。帰り道では、既に私ののどに不快感がある。幼子二人を抱えてダウンするわけにはいかないので、薬局に寄って市販の風邪薬を買った。だが説明書を読んだら、授乳中の人は飲むのをひかえるようにとの注意書きがあり、飲むのを断念。その日の夜には、私が涙目、鼻水となり、翌日には主人が感染した。かくして我が家は「鼻がみ家の一族」となり、家中にティッシュの箱が転がっている。

おとといの夕方、長女が8度の熱を出した。小児科でもらったのは風邪の症状を緩和する薬だけだったので、熱冷ましの処方箋も出してもらおうと再度小児科に行ったら、先生が渋い顔をして言った。

「解熱剤は、あまり出したくないんだよねぇ…」

いわく、解熱剤は上がった体温を無理やり薬の力で下げるものだから、子どもの体には負担が強いし副作用もある。9度を超える熱がつづくようなら飲ませたほうがいいけれど、8度ほどなら、まだ飲ませないでいいのでは、とのことだった。不安気な私の心中をくんでか、「9度を超えたら出すから」と言ってくれ、結局、そのまま帰宅した。

夕飯のとき、夫と話しながら、たしかに私を含め、今の母親は子どもにすぐに薬をあたえがちかなと思った。少しでも早く楽にしてあげたい、そして自分も安心したい、というのが一番の理由だろうが、仕事を休めないといった親側の事情もあるだろう。朝、熱がある子どもに解熱剤を飲ませて、なにも言わずに子どもを保育園に預けていく親が多い話もよく聞く。親も胸を痛めながら、やむなくそうしているのだろうが…。

幸い、娘の熱は9度を超えることはなく、私も高熱にはいたらず、快復にむかっている。あのとき先生が薬を出さなかったおかげで、すぐに薬に頼るこれまでの習慣を改めるきっかけができ、感謝している。

 

子どもがことばを話し始める時

2009年2月号

子どもがことばを話し始める時

カーサクラブ英会話講師市橋理恵子

 

「ねえ、わらってのど渇いたっていうことでしょう?」

アメリカに引っ越しをして、現地の幼稚園に通い始めて6ヶ月ほど。ようやく泣かずに通園できるようになった矢先、5歳の娘が突然私に聞いてきた。

「んんん、わらを食べたらのど渇くかな…」とあいまいな返事をすると、

「違うよ、英語のワラだよ!」と娘。そこでやっと「ワラ」は”water”のことと気がついた。

「みんな、『アイワラ』って言って水飲みに行くんだよ。」

と得意げに説明してくれた。日本の保育園での「先生、のど乾いた!」の状況がアメリカでは“I want water!”だったのだろう。辞書をいくら引いても出てこない翻訳だ。

分からないことばの洪水の中から、娘はようやく少しずつ英語のことばを拾って、状況から自分なりに意味を対応させ始めたのだ。先生からも娘がしゃべり始めたと報告があったばかりだ。

そうだ、こうやって子どもはことばと出会い、いろんな場面でいろいろな組み合わせでことばを浴びるうちにことばの概念を練り上げ、理解していくのだ。そしてそれがある程度蓄積してきて初めてことばをしゃべり始めるのだということを、改めて認識した。ヘレン・ケラーが初めて学んだことばも“water”だったっけ。私はあえて、「“water”は『水』のことだよ」とは言わずに、

「そうなんだ、のどが乾いた時は“I want water”っていうんだ。」と答えた。

小さな子どもたちに英語を教えるとき、私はできるだけ自然な英語の中から子どもたちが自分なりにことばを拾い、理解していく過程を大切にするように心がけている。柔らかい脳を持つ子どもたちだからこそできる学習方法だと思うからだし、ぐちゃぐちゃとしたことばのパズルがすっきりとはまって「わかった!」という時の、子どもたちの目の輝きを見るのが何よりの楽しみだからだ。

あれから十数年、バイリンガルに育った娘は今、英語の試験の和文英訳で意訳をしすぎて減点をされては「こんな変な言い回しはしない」と憤慨している。