ホーム>子育てエッセイ>2010年5月

2010年5月

『八日目の蝉』

2010年5月号

『八日目の蝉』

浅田志津子(教育・福祉関係のルポライター)

 

先週、NHKの連ドラ「八日目の蝉」(全6回)が最終回を迎えた。これほど私の胸の奥深くをついてくる連ドラは、この十年なかった。

あらすじはいたってシンプルである。不倫相手の説得により不本意に中絶させられ、それが原因で子どもが産めなくなった女性、希和子が、不倫相手とその妻の子ども(生後6カ月の赤ちゃん)を、突発的に自宅から連れ去る。すぐに指名手配されるが、その後、逮捕されるまでの約5年間、希和子は子どもを抱えて逃げ続けながら、母としての人生を全力で生きるという話だ。謎かけやミステリーが全くないのに、これほど惹きつけられるのは、ドラマ全体の質の高さゆえだろう。

希和子は『誘拐犯』である。だが、人生のすべてをひきかえにして、偽りの親子の時間を少しでも長引かせるために、子どもを抱きかかえて必死で逃げ続ける希和子の姿はどこまでも哀れで切なく、視聴者は希和子に味方せざるを得ない。その幸福が長くは続かないことを知っているからこそ、希和子は娘とのひとときを、その1分1秒を噛みしめて生きる。その母娘の切なく、やさしい情景に何度も涙しながら、どうして私は、こんなふうに子どもとの日常をいとおしむことなく、イライラしてばかりいるのだろうと、自分へのやるせなさで胸が痛くなった。

「子どもと1秒でも長くいっしょにいたい」どころか、「1時間でいいから、ひとりになりたい」願望を、私は慢性的に抱いている。全然言うことを聞かないとき、ご飯を食べないとき、兄弟げんかをいつまでも続けているとき、まとわりついて家事や仕事の邪魔をしつづけるとき、とにかくうるさいとき、鬼のような形相で子ども達を叱りつけ、怒鳴ってしまう。そして、そんな自分に、そんな毎日にうんざりして、「子どもがいなければ、どれほど楽だろう」と思ってしまう。このドラマは、育児に疲れている多くの母親に、「ママ」「お母さん」と、全身で求めてくる存在がいる幸せ、抱き上げて、そのずっしりとした重みとぬくもりをいくらでも味わえる幸福を再認識させたと思う。逃げる必要もなく、全国の小児科を無料で受診でき、子どもとの未来を夢みる幸福も。毎週、見終わった夜は布団のなかで、眠る子ども達の小さな手を握って、少し泣いた。「ごめんね、ママ、いつも怒ってばかりで。本当は、すごく幸せなのにね」。