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2011年7月

突然の網膜剥離

2011年7月号

突然の網膜剥離

浅田志津子(教育・福祉関係のルポライター)

 

今月のエッセイが遅れたのには訳がある。右目が網膜剥離になり、緊急手術したからだ。6日(水)の夕方、「蚊がいる」と思ったのがはじまりだった。黒い虫(蚊)が、自分の目のまわりを飛んでいるように見えたからだ。だが、羽音が全くしないのと、目の動きにあわせて蚊が移動する状況に、これは蚊ではなく、私の右目のなかで黒い点や糸くずみたいなものが見えていることに気づく。(後で知るのだが、これは飛蚊(ひぶん)症と言い、これ自体は深刻な病気ではないそうだが、網膜剥離の初期症状である場合もあるので要注意)。

たぶん、たまった疲れが目に出たのだろうと軽く考え、翌日の七夕の夏まつりで子ども達が着る浴衣の準備をしたり、日々の雑務に追われ、目のことはあまり気にしないまま週末を過ごした。

11日(月)の朝、起きたら、右目の視野の下部分が黒くなっていた。それでも洗濯などの家事をしつづける私に、「早く病院に行け」と主人が怒り、午前中に最寄りの眼科を受診した。さまざまな検査をした末、「網膜剥離」の診断を受け、別の病院で手術するよう言われ、愕然とする。

その時点では、右目の視野も上半分は残っていたので、翌日、紹介状を持ってさいたま赤十字病院の眼科を受診することにして、ひとまず帰宅、保育園に子ども達を迎えに行き、夕飯の支度をしたりと日常の家事をいつも通りこなした。それがいけなかったのか、剥離がいっきに進行してしまい、翌朝、起きたら、右目の視野の4分の3が失われていた。

主人は仕事が休めず、ひとりで病院に向かう。医師から、剥離の進行が速く、網膜のあちこちに穴が開いてしまっていて、かなり難しいタイプの剥離だと言われ、驚愕する。ここでは手術は早くても金曜になる、一日でも早く手術すべきとのことで、急遽、都内の網膜剥離の手術で知られる眼科クリニックを紹介してもらった。紹介状を握り締めて、ひとりで左目の視力だけで電車と地下鉄を乗り継いで、その眼科に向かったときは、やはり心細かった。

そして、13日の水曜、眼球の内側から行う「硝子体手術」を受けた。手術中の御守りは、子ども達が生まれた時、産院が足首に巻く名札だった。幸い、手術は無事終了し、一昨日、帰宅する。まだ右目はよく見えず、当分は「下向き」姿勢を保ちつづけなければならない。

激動のこの一週間に自分でも驚いているが、すぐに手術してもらえて本当に幸運だった。もし、初受診が一日遅れていたら、手術は数日先になり、そのぶん病状が更に悪化して、手術がよりリスクの高いものになった危険は十分ある。それを思うと心底怖く、ぐずぐずと家事や雑務をしつづける私を、「早く病院に行け」と怒鳴った夫に感謝している。

 

母子分離のとき ~小さな両手~

2011年7月号

母子分離のとき ~小さな両手~

中舘慈子

 

2歳のみくちゃんは今日が初めてのカーサ(カーサデルバンビーノファミリー・サポート直営幼児教育施設)です。入ってくると迷わずにおもちゃのたくさんある部屋へ行きおままごとを出して遊び始めました。?!10分くらいたったとき何かに気づいたみくちゃん。そうです。ママがいないことに気づいたのです。生まれたときからいつも一緒にいてくれたママがいない。たいへんです!!

「ママァ~ママァ~」みくちゃんは大声で泣き始めました。保育補助に入っていた私が抱き上げても

「ウェ~イウェ~イウギャ~!!」。

泣き声は号泣に、号泣は叫びに、とどんどん大きくなっていきます。

こんなときには、気持ちを静かにする必要があります。

「みくちゃん、ママいないねえ。悲しいねえ。みくちゃんの気持ちよくわかるよ~」

と話しかけてから、耳元で小さな声で

「だいじょうぶ。ママきっとおむかえにくるよ。だいじょうぶ。ママくるよ。」

と繰り返しました。まだヒックヒック泣いているみくちゃんに壁のところにある時計を見せて

「今10時半でしょう?長い針と短い針が合体して12時になると、ママおむかえにくるよ。12時になったらママに会えるよ。」

と、そっと話しました。

みくちゃんから泣き声に混じってやっと声が出ました。

「・・・じ?・・・じ?」

「そう。12時よ。ママぜったいおむかえにくるから、それまで先生やお友達とあそびましょ。」

するとみくちゃんは小さな両手で私のほっぺたをキュッとつかんで、涙でぐしょぐしょのみくちゃんの顔のまん前に引き寄せました。そして私の目を真剣なまなざしでじっと見つめて

「ママくるの?」

「うん。ぜったいくるよ。おやくそく。12時におむかえにくるからね。」

私もみくちゃんの目をしっかりと見つめて話しました。

その後、みくちゃんはお友達と一緒に机の前に座り、幼児教育タイムも講師や先生たちと楽しく過ごすことができました。思いがけないほどの積極性も見せて。

12時になりました。玄関の外にはみくちゃんの大好きなママの顔が見えます。

「ね!やおくそくまもったでしょ?ママお迎えに来たでしょ?また元気に遊びに来てね。」

みくちゃんは小走りにママのところに走っていきました。

一度だけではなかなか納得できないかもしれません。しかし、2歳児も自分でしっかりと納得したうえで母子分離のパニックから抜け出して、先生やお友達との時間を楽しめるようになっていきます。みくちゃんの真剣な小さな両手の感覚が今も忘れられません。

(事実に基づいて書きましたが名前は仮名です。)