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2011年9月

母子と自転車

2011年9月号

母子と自転車

浅田志津子(教育・福祉関係のルポライター)

 

7月半ばに網膜剥離の手術をして以来、まだ車の運転を控えている。夫は外出や地方での個展等で不在が多いため、保育園の送り迎えはほとんど私が自転車で行っている。

前椅子にもうすぐ3歳の次女(15㎏)、後ろ椅子にもうすぐ6歳の次女(22㎏)、計37㎏を乗せて、片道自転車で15分の道のりは相当キツイ…。上り坂は私だけ降りて、ふうふう言いながら押して登る。猛暑もつらいけど、雨に降られると母子そろって悲惨この上ない。

子ども二人を乗せていては傘をさすこともできず、どしゃぶりのなか、ひたすらペダルをこぐ。ただでさえ、惨めで泣けてくる状況なのに、眼に雨水がしみて涙が出る。「もうすぐだからっ。家に着いたら、すぐにお風呂だからっ」と、ずぶ濡れの子ども達に何度も叫びながら、必死でペダルをこぐ。「雨のときはタクシーを使え」と夫は言うが、往復4000円を思うと、なかなか使う気になれない。

先日、自転車をこぎながら、「そろそろ、車の運転できるかなぁ」とつぶやくと、後ろに座る長女がぽつりと言った。「自転車のほうがいいなぁ」。「なんで?」「だって、いろんなものがいっぱい見えるし、近いもん」。

たしかにそうだ。自転車をこいでいると、なにもかもが近い。用水路沿いに咲き乱れる背の高いタチアオイや、水路を泳ぐ鴨たち。初夏の田植えから晩秋の収穫まで、芸術的にその姿や色彩を変えていく田んぼ、畑に並ぶサトイモの葉の傘、民家の庭の木からこぼれるサルスベリ、そして、顔なじみの夕方の散歩中の犬達。

「ママ、見て見てっ、カモちゃん」「あれ、なぁに」「ママ、わんわん」と、いちいちそれらに反応する子ども達に答えながらペダルをこぐ。せがまれて自転車を止め、それらを眺めたり、さわることもある。踏み切り待ちで見た夕焼けがあんまりきれいで、電車が通過した後も、しばらく3人で眺めていたことも。

長女は来年から小学校だ。これからはひとりで自転車に乗って、ママの知らない風景を見つけていくだろう。もう、背中越しに長女とあれこれ話すこともないと思うと、淋しくてしょうがない。