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2014年10月

すれちがう少女

ときめきエッセイ 第129回 

すれちがう少女

浅田志津子(教育・福祉関係のルポライター・詩人)

 

 日中、駅へと向かう道で、時々すれちがう少女がいる。年は十代半ばくらいで、いつもリュックを背負い、ひとりで電車通学しているようだ。ダウン症の彼女とすれちがうたびに、「ひとりで大丈夫かな」「かわいいシャツを着ていたな」とかあれこれ思うのだが、声をかけたことはない。

これまでに、近所の顔見知りの子や我が子の同級生などに道で会ったときに「こんにちは」と笑顔で挨拶しても、怪訝な顔をされたことが何度もあった。「知らない大人に声をかけられる=不審者かもしれないから気をつける」的な教育の副作用だろうか。ゆえに私も、私をよく知る数人の子ども達にしか声をかけなくなってしまった。

先日、帰りの電車の中で、偶然、彼女といっしょになった。降りるときに車掌さんに手を振り、車掌さんも笑顔で答えていた。「車掌さんと仲良しなんだなぁ」と思いながら、私も彼女につづいて電車を降りる。駅の改札につくと、今度は駅員さんから「おかえりぃ」と声をかけられ、「ただいまぁ」と答えていた。

改札をでると、ちょうど駅に着いた70代くらいの女性から、「○○ちゃん、髪切った?かわいいね」と声をかけられ、「うん」と照れて答えていた。さらに商店街をとおると、駐輪場のおじさんが、そのあとは八百屋のおばちゃんが、店先で仕事をしながら、ごく自然に彼女に「おかえりぃ」、「暑いねぇ」などと声をかけ、彼女も「ただいまぁ」と答えていた。その様子を、数m後ろを歩きながら、私は驚きと共に見つめていた。

いつも一瞬のすれちがいだったから、彼女がこんなに地域のたくさんの大人達に声をかけられ、見守られていることを知らなかった。「ただいまぁ」と答える彼女の、穏やかな表情を見たことがなかった。この地域で、こんなにたくさんの大人達に親しまれ、そして地域の大人達を信頼している子どもが、いったいどれだけいるだろう。

私も、彼女を見守る地域の大人のひとりになりたい。その温かい輪に入れてもらいたい。そう強く思った。今度すれちがうときは、勇気を出して笑顔で彼女に「おかえり」と声をかけてみよう。彼女は私を怪しむだろうか。それとも、「時々すれちがうおばさん」と覚えていてくれて、「ただいまぁ」と、あの穏やかな表情で私を受け入れてくれるだろうか。