ホーム>子育てエッセイ>2010年9月

2010年9月

『虐待を防ぐ』~ベビーシッターの役割第1回~

2010年9月号

『虐待を防ぐ』~ベビーシッターの役割第1回~

中舘慈子

 

浅田さんのエッセイを見て、書かなくてはならない気持ちになりました。ベビーシッター事業を行っている立場から、何回かにわたってベビーシッターの役割について思いを綴ってみます。

自治体が産前産後のお母様のベビーシッター料金を助成する制度があるのをご存知ですか?世田谷区の「さんさんサポート事業」、川崎市の「産後家庭支援ヘルパー事業」、渋谷区の「にこにこママ」などの産前産後のサポート事業です。自治体によって利用期間、自治体からの委託費(利用者の負担額)はさまざまですが、誰でも気軽にベビーシッターを利用出来る制度です。

たとえば、世田谷区の場合は産前1ヶ月から産後7ヶ月まで。1回2時間のサービスを3回まで無料で受けられるものです。これは「子どもたちの健やかな成長を願い、子育て家庭の産前・産後の負担を軽くすること」を目的とした事業です。しかし、実はもう一つの目的があります。それは、「児童虐待防止」という目的です。

出産後の家庭に入り、サポートをしながら母親や家庭の実態を知る、ということは虐待防止のための一つの有効な手段だと思います。「家庭」という世界はいわば密室であり、なかなか入り込むことが出来ません。また、日本では家庭に第三者が入り保育を依頼する文化、ベビーシッターサービス利用に対する根強い抵抗感がまだまだ残っています。

しかし、自治体が行う事業だから、そしてベビーシッターサービス料金の一部または全額を自治体が負担するから、「利用して見よう」という気持ちにつながるのではないかと思います。産後は心身ともにだれかの助けを得ないと乗り切れないときです。このとき心身ともに余裕を持てることが、「子どもがかわいい」という気持ちにつながります。ベビーシッターは赤ちゃんの沐浴やお世話、家事支援などを通じてお母様を応援します。

子育てに不安を持たないお母様はいないといってよいと思います。身近な子育て支援者(ベビーシッター)が、「大丈夫ですよ」「それでいいんですよ」と、ありのままのお母様を受け止めることで、子育てに自信を持つことが出来るでしょう。

また、「赤ちゃんにどう接してよいかわからない」というような場合、実際にベビーシッターが赤ちゃんと関わっている様子を見ながら、「こうやってあやせばいいのだ」「赤ちゃんが泣いたときはこうすればよいのだ」ということを学ぶことが出来ます。

お母様に心の余裕ができること、そして第三者の目があるということが、虐待を未然に防ぐのではないでしょうか。

虐待は、家庭という密室の中で行われます。虐待を防止するには、家庭の子育てに信頼できる第三者を入れて、子育ての社会化を図る必要があります。

まず、産後間もないときからベビーシッターを気軽に利用できる制度があらゆる自治体でできること、いずれ、すべての家庭のドアが開かれ、良質なベビーシッターが訪問保育を定期的に行う制度が出来ることを心から待ち望んでいます。

 

『署名という一歩』~児童虐待防止に向けて~

2010年9月号

『署名という一歩』~児童虐待防止に向けて~

浅田志津子(教育・福祉関係のルポライター)

 

このひと月というもの、精神的にやや不安定な状態が続いている。大阪の2児遺棄事件の報道を聞いて以降、ゴミためと化した狭くムシ暑い部屋の中で、飢えと渇きで苦しんでいる幼子二人の様子が、弟の世話をしながら必死で助けを求めて泣き叫ぶ3歳の姉の姿が、四六時中、脳裏に浮かんでくるようになってしまったのだ。そのたびに胸が潰れそうになり、「こうしていたら、ああしていれば、救えたのでは」という「たられば論」を、頭の中でぐるぐるぐるぐる、何度も何度も考えつづけて夜も眠れず、しまいには自分の子どもの世話しかしていないことへの罪悪感に苦しむようになってしまった。突然、泣きだす私に、子ども達までが動揺して、夫からは心療内科の受診を勧められた。

だが、最近になって、ただ加害者や行政を非難、罵倒したり、精神のバランスをくずしたり、「もし自分が隣に住んでいたら、後に不法侵入で訴えられてもいいから、ベランダから侵入したのに…」と悔しがりつづけているだけでは、何の意味もないことをようやく理解した。そして、虐待の事件が報道されるたびに、自身の精神状態が乱れるのを恐れて、即テレビを消し、極力目と耳を塞いで過ごしてきた、これまでの自分の無責任さにも気づかされた。虐待問題を改善するための具体的な行動を何ひとつしてこなかった私も、加害者のひとりなのだ。

自分になにができるか調べたところ、先日、神戸市灘区在住の60代の主婦、藤原八重子さんが発起人の署名活動を知った。藤原さんは、相次ぐ虐待報道にじっとしていられず、ただ胸を痛めているだけではだめだと請願書を作成、今年5月から地域で草の根的に署名活動をはじめたところ、4カ月弱で53000人を突破した。現在、個人、団体、メディア等の賛同と協力の中、全国的な運動へと発展しており、集まった署名は、請願書とともに次期通常国会に提出される。

請願書では(1)行政が通報に対して迅速に対応できる体制づくり(2)健診を受けない児童への家庭訪問の完全実施(3)児童相談所の増設、増員(4)子どもが安全に保護される体制の整備(5)体制が充実されるための財源の確保、の5項目を求めている。

悲惨な虐待報道のたびに、怒りと哀しみで胸が苦しくなり、「なんとかしたい」「でも、自分になにができるだろう」という切実な想いを抱く人は大勢いる。でも、私を含め大半の人は、結局、何もせずに終わってしまう。そんな現状を変える一歩に、この署名活動への参加があると思う。少しでも関心のある方は、下記のURLをぜひご覧いただきたい。

「児童虐待の防止に向けた体制強化を求める署名」
//www.shomei.tv/project-1545.html